Interview デザイナーインタビュー

フレシャス・スラットそのデザイン哲学とは page2
暮らしの中での使いやすさを追求新機能を生かすディテール

ーー後ろのボックス部分は上も平面で、小物をすっきりと置いておくことができそうですね。

安積:あえて上面に物が置けるようになっています。デュオは上方から7.2Lの水パックを出し入れするデザインでしたので物を置くスペースがありませんでしたが、スラットは女性でも無理なく設置ができるよう、新開発の9.3L水ボトルを床と同じ高さの下部からローディング(充填)する方式をとっています。そのことによって空いた天面スペースを無駄にせず、意図的にスペースを設けました。デザインとは、暮らす人のもの。暮らしの中で使われる家電としては、そこに物が置かれるのが自然。むしろそれを誘発するようなデザインです。

デザイン画1

ーーコントロールパネルのデザインもデュオとは変わりました。

安積:ファサードはシンプルな板の、継ぎ目のない綺麗な一体感をイメージしましたので、コントロールパネルでも無駄や煩雑な印象を極力無くしたいと考えました。コントロールパネルはユーザーの目に最も近い位置にある、いわば”見せ場”ですから、変な要素が混じると雑然とチープに見えてしまう。ですからコントロールパネル周囲でおかしな印象を生まないよう、パーツ割りなどにも注意を払いました。
また、快適でハイクラスな使用感の追求という点から、ボタンのクリック感や、LED部分を囲む輪郭の太さもコンマ一ミリ単位の細かさで調整しています。今回、スラットでは通常の冷・温水に加え、業界でも稀な「常温」水を採用していますから、通常よりもボタンの数が増えており、グラフィックをシンプルに見せることは重要。コップ位置の中心を示すインディケーターも光センサー受光部と兼ねることで、より整理された印象に仕上げています。ファサード裏に配された扉のロックボタンも上方からアクセスして力のかけやすい押し下げ方式で、軽快なクリック感とストレスのない開閉を実現しました。すべてのボタン、インディケーターに対して、「ここに、このサイズでなければならない」と感じられるまで細心の注意を払いながら検討を行いました。

ーーそんな細部に至るまで、丁寧にデザインされているのですね!

安積:全体的にスリムさ、コンパクトさを感じさせるべく、溝やボタンも少しずつ小さく細く、微調整を加えています。「Slat」のロゴも主張するものではなく、「FRECIOUS」のロゴ書体を踏襲しマッチングするような、さらっとしたもの。デュオからの継承なので、哲学が重複する部分は多いのですが、今回は全体的なデザインのまとめ方として四角い形、硬質な方へ寄せています。気づきにくいとは思いますが、トレーの溝も、デュオより少しだけ角のある表情を残しています。

デザインスケッチ1デザインスケッチ2
質感の豊かさが導く「上質な暮らし」

ーースラットのリリースにあたり、安積さんが選択されたカラーバリエーションはブラックとホワイトのモノトーン、しかもツヤとマットのコンビがとても新鮮ですね。

安積:デュオでは色の切り替えでコントラストをつけましたが、スラットは質感のみの違いで変化をつけました。私が以前デザインした茶器のシリーズ、Yauatcha Tea Set(英国ヴィクトリア&アルバート美術館永久所蔵品)には実は酒器もあって、黒マット陶器の片口の中に透明のお酒が満たされた姿はとても美しいと感じました。液体の光沢とマット、そのコントラストが生む表情が飲み物としてものすごく綺麗に、美味しそうに見える。そういった、これまでのデザイン経験で得た”質感の豊かさが高級感につながる”という私の実感、手応えを今回も生かし、マットとツヤの採用に至っています。

ーー光る鏡面のツヤと、光を吸収して影を作るマットのコントラストが、確かにとても美しく、目を引きます。

安積:デュオからの継続的な路線として、シンプルなもの、そして環境になじんで圧迫感のないものをつくりたいという意識がありました。鏡面の部分に起こるリフレクション(映り込み)を利用して、置かれた周囲の景色とつながりを生むことも狙っています。景色が連続して映り込むことで後方のボックスは気配を消し、ファサードのみが存在感を示すような処理をしているんですね。また、鏡面仕上げは拭くと汚れが取れやすい部分ですから、手や水が頻繁に触れる場所を清潔に保つ処理としても適しています。
ウォーターサーバーとは美味しい水をストレスなく飲みたいという欲求を満たすものですから、生活環境の中で”置くこと”自体にストレスを感じさせたくありませんし、機能の煩雑さでストレスを増やすのも正しくありません。質の良い美味しい水を提供することに加えて、スラットを置くことで少しでもインテリアのグレードが上がり、快適でスタイリッシュな暮らしの実現をお手伝いできればと願っています。

ーースラットの水ボトルは以前のものに比べて大容量の9.3Lで、しかもメジャーなウォーターサーバー会社では初の、常温水が出る機能も。常温でも美味しい銘水を日頃からたくさん飲むような、質が良く丁寧な暮らしへの手がかりになるウォーターサーバーとして、ぜひみなさんにおすすめしたいですね。

Slatカラバリ
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安積伸(あづみしん)

国内外で数多くのデザイン賞を受賞し、世界の複数の美術館に作品が収蔵されるなど、国際的に活躍するデザイナー。京都市立芸術大学、RCA(英国王立美術大学)大学院を経て、25年間英国ロンドンを拠点に活躍。2015年、「FRECIOUS dewo(フレシャス・デュオ)」と、安積さんが2001年にデザインを手がけた名品「エッジ・クロック」がJIDAデザインミュージアムコレクションをダブル受賞したのみならず、今回「FRECIOUS Slat(フレシャス・スラット)」が2016年度グッドデザイン賞を受賞するという栄誉に輝く。2016年4月に法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授へ就任。

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