プロダクトデザイナー 安積 伸インタビュー
FRECIOUS dewo page01

プロダクトデザイナー
安積 伸インタビュー

Interview with Shin Azumi

『フレシャス・デュオ』/デザイナー安積伸が語るウォーターサーバー(後編)

プロダクトデザイナー
安積 伸インタビュー

Interview with Shin Azumi


「環境に馴染む」という
意味での「シンプル」意識

――細かいところまで使いやすさを考慮しているんですね。

安積:僕のデザインの一つの考え方で、「機能性」を軸にファンクションをエクスプレッションに変える――「機能の視覚化」、「機能の表現化」みたいな方法論があります。機能を表現することで、「可視化」するというか、機能を一つのデザイン表現、表現力にまで高める。そういうことができないかなといつも考えています。

――安積さんのデザインは、生活者にとってもすごく生活の中に取り入れやすい。でも、それがあるおかげで、生活の質がグっとあがったような、そこがオシャレに見えるような、そんな感じの作品だな、と常々思っていました。

安積:そうありたいな、と思っています(笑)。今回のフレシャスさんとのお話で言うと、まず出てきたのが、とにかくこうシンプルなものが欲しいということ。で、彼らのいう「シンプル」と僕の考える「シンプル」の言葉のニュアンスのすり合わせが最初は難しかった…。

「環境に馴染む」という意味での「シンプル」意識

そこを僕なりに咀嚼してその「シンプル」であることとは、要するに家庭なりオフィスに入った時に、「環境に馴染む」という意味での「シンプル」意識であると理解したんですね。それを考えると、建築であるとか、その室内造作っていうのは基本的には幾何形態がベースになっています。円柱とか円筒とか角柱とか、木の素材ですとか、コンクリートの柱とか。なのでデュオも円筒と立方体を組み合わせて幾何形体を強調し、中心部をザクっと切り取った造形的な思いきりのよさ、みたいなものを持たせました。遠目にみると本当に何もないただの柱のようなものだけど、近づいて実際にインターフェースに触って使ってみると、そこには細かい配慮の利いた技術的にも密度の高いものが感じられる。そういうチラ見えする技術力や配慮と、主張しすぎない外観のバランスが生まれれば素晴らしいだろうなと思いました。

デザインラフ1 抜け目のないハイクオリティ感

▲プラスチック部分には途中まで細かな模様を付けるシボ加工が施されている。LEDライトは、暗闇でも眩しくならないように淡い光にこだわり、生活シーンを考慮した細心の注意が払われている。

求められるのは、
抜け目のないハイクオリティ感

――確かに遠くから見るのと、近くで見るのとで印象が変わりますね。安積さんは、最近のデザイン家電の潮流をどう感じていますか?

安積:色々あると思うんですけどね。デザイン家電というか、特にこういう電気製品とかプロダクトは、「グレード感」みたいなものがものすごく求められているな、と最近思いますね。色々な部分での「グレード感」というか「クオリティ感」というんですかね。抜け目のない、ハイクオリティな感じが求められていると感じます。そういうのをなるだけこれ(デュオ)でも実現したいなと思いました。単純にプラスチックのものでも、ちょっとこだわった、凝った表面処理がしてあるとか。デュオでいうと、(サーバーの天面を差しながら)天面をクリアの樹脂でカバーをしてあるんですが、手前側の半分は裏側からざらっとした質感をつけています。こうすることで、同じ一つの素材なんですけど、なんだか少しだけ違った素材にみえる。素材がもっている特殊性みたいなのがちょっとだけ生かされる。LEDも中でチラチラッと光るんですけど、そういうものもむき出しにせず、透明樹脂カバーの下に隠してしまうことで一見ついていない時には何もないように見えて、点くとライトが見える。普段は隠れていて、浮かび上がるような処理とか、こういう質感、光沢感での違いとか、銀色のメタリックな処理などは、意図的に取り入れるようにしました。

デザインラフ1 抜け目のないハイクオリティ感

▲プラスチック部分には途中まで細かな模様を付けるシボ加工が施されている。LEDライトは、暗闇でも眩しくならないように淡い光にこだわり、生活シーンを考慮した細心の注意が払われている。

使われている楽しい風景が
想像できるプロダクト

――デュオが家庭に置かれることによって、何か生活に変化があることを期待しますか?

安積:そうですねぇ…。本当にそういう意味で言うと、僕は器物自体の価値というよりは、水を飲む行為自体が大事なのであって、これ(デュオ)はあくまで器物で裏方だと思います。美味しい水を飲んで、「気持ちいいね」とか「料理すると楽しいね」と純粋に感じられるような生活、そういう潤いみたいなことの方が重要だと思うんです。それが少しでも定着するように、邪魔にならないよう手助けするツールとして、気持ちいい形で家庭の中に入れたらいいなと思います。クォリティ・オブ・ライフ(生活の質)がちょっと上がれば、という感じですよね。あと、ここ数年考えていて、デュオにも反映されていると思うのは、「使っている楽しい風景が想像できるものかどうか」ということです。使われている風景、使っている生活がイメージできるか、できないかでプロダクトそのものが持つオーラが変わってくると思います。棚に飾って置きっぱなしにする物じゃなくて、使われているものとして、シンプルだけど使われている風景が絵になる、様になるというものを作りたいですし、家族で毎日使う器物は、楽しい生活を感じさせるようなデザインであってほしいなと考えています。

機能性から考え出された 給水口やボタンの位置

▲  「十代のころ、デザインで感動したのは「SONYウォークマン」と、映画『ブレードランナー』のシドミードによる美術」と語る安積さん。

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安積伸(あづみしん)
1965年兵庫県生まれ。ロンドンを拠点に、国際的に活躍するプロダクト・デザイナー。NECデザインセンター勤務を経て、92年に渡英。英国王立美術大学修士課程を修了後、95年にデザインユニット「AZUMI」として活動の後、05年に「a studio」を設立。マジス社やラパルマ社など多くの国際的企業でプロダクトデザインに携わる。FX国際インテリアデザイン賞2000「プロダクトオブザイヤー」をはじめ、グッドデザイン賞、100%ブループリントデザイン賞など国内外で数多くの賞を受賞。また、審査員としてもIF賞(独)などに参加。「LEM」スツールがビクトリア&アルバート美術館(英)のパーマネントコレクションに選ばれるなど、各地の美術館に作品が収蔵されている。